商品開発とは?バルミューダに学ぶ、パン屋さんの開店前から始まるブランドの商品開発
この記事の結論
商品開発の手順を調べると、市場調査、試作、テストと、作業の順番ばかり出てきます。バルミューダの公式な開発ストーリーを読むと、トースターの「クロワッサンモード」は、開発チーム12名が、開店前のパン屋さんでパンを食べた朝から始まっていました。私は、商品開発とは、機能を足す仕事ではなく、お客様の体験を、先に決める仕事だと読みます。
「商品開発の進め方を知りたい」
そう調べている経営者の方に向けて、公式に公開されている開発ストーリーを、時系列で読みます。
1. 商品開発とは
商品開発は、お客様に選ばれる商品を、企画し、つくり、届けるまでの仕事です。解説の多くは、その手順を並べています。この記事は、手順の手前の、何を目指してつくるのかを読みます。
経営者・ブランド管理者向けThe Art of Branding 無料説明会次回勉強会のテーマ 「ブランディングに必須のアート思考とは」無料で申し込む2. バルミューダの公式な開発ストーリー

バルミューダは、2003年に設立された家電メーカーです。2010年にGreenFan、2015年にBALMUDA The Toasterを出し、キッチン家電に参入しました。
公式サイトには、製品ごとの「開発ストーリー」が公開されています。サイトは、そのアイデアを現実にするために、いつも、ひたすら試行錯誤と実験を繰り返している、と書いています。
そのうちの一つ、「人生最高のクロワッサン」は、代表の寺尾玄さんが書いた文章です。要点を、私の言いかえで並べます。
- 時は2014年。BALMUDA The Toasterを開発していた頃
- 開発に協力してくれた吉祥寺のパン屋さん(ダンディゾン)に、総勢12名の開発チームで、開店前に行った
- 次々と焼きあがるパンを食べさせてもらった。どれも、驚くほどの完成度だった
- クロワッサンを食べた寺尾さんは、思わず「人生最高のクロワッサンだ!」と叫んだ
- その感動を、家でも味わいたい。こうして、トースターのクロワッサンモードをつくることになった
公式の文章によると、普通のトースターでクロワッサンを焼くと、どうしても上だけが焦げます。パン屋さんのシェフが完成させた表面の焼き加減は変えずに、余計な水分を飛ばしてパリッとさせたい。そう考えて、開発チームがつくったのが、このモードです。
公式サイトには、トースターなどで使えるレシピのほとんどは、社内で生み出されている、という記述もあります。
3. 開発の出発点は、機能ではなく体験だった
私は講義で、商品づくりを「新しいカテゴリーをつくり、それをそのまま名前にする」という見方でも話します。昔の牛乳には、おいしいというイメージがなかった。そこで「おいしい牛乳」というカテゴリーをつくり、そのまま名前にした。商品のコンセプトと、カテゴリーと、名前が、ひとつにつながっているのです。
ここからは、私の読みです。
普通の商品開発は、「こういう機能のトースターをつくろう」から始まります。このストーリーは、順番が違います。始まりは、パン屋さんの朝の、焼きたてのクロワッサンを食べた体験です。その体験を、お客様の家に持ち帰る。そのために、必要な機能を逆算している。
だから、「クロワッサンモード」という、機能の名前そのものが、お客様の体験の名前になっています。仕様書の言葉ではなく、食べる人の言葉です。
もう一つ、見逃せないことがあります。開発チームは12名全員で、開店前のパン屋さんに行きました。開発の担当者だけでなく、チーム全員が同じ味を、同じ朝に食べた。同じ体験を持った人が、同じ目標に向かってつくる。これは、組織の力です。
4. 名作のあとの数字も、あわせて読む
バルミューダの決算の数字も、あわせて見ておきます。東京証券取引所に出された決算短信の数字(金額の単位は百万円、決算情報サイトで確認)です。
2023年12月期
売上高:13,011
営業損益:1,375の赤字
2024年12月期
売上高:12,462
営業損益:12の黒字
2025年12月期
売上高:10,115
営業損益:866の赤字
2025年12月期は、売上高が前の期より約19%減り、営業損益は赤字でした。会社の2026年12月期の予想は、売上高10,500、営業利益30です。
ここからは、私の読みです。数字の原因は、公式の資料から断定できないので、ここでは書きません。ただ、確かに言えることがあります。名作の商品が生まれたことと、会社の業績が続くことは、別の話です。
私は、ブランドを「シェフとキッチン」で説明します。シェフは、他社と違ったことを「行う」こと。キッチンは、他社と違ったものを「持つ」ことです。クロワッサンモードの開発は、体験から商品をつくる、見事なシェフの仕事でした。一方で、業績は、その商品をつくり続け、売り続け、お客様に2度目の判断をしてもらう、キッチン全体の力にもよります。
だからこの会社の歩みは、商品開発の手本であると同時に、商品開発だけでは経営は完成しないという、大事な学びでもあります。私は、挑戦して名作を生んだ会社を、敬意をもって読みます。そして、自社の商品開発を考えるときは、商品の次に、それを支える仕組みと、売ったあとの関係も、いっしょに考えます。
5. 商品開発を、4つの要素で読む
私は、ブランディングとは経営の全てであり、その活動であると考えています。商品開発は、そのうちの一つにすぎません。会社のあらゆる設計の中に、商品開発もある。私はそう考えています。
- コミュニケーション: お客様に、どんな気持ちを抱いてほしいか。「家でも、あの朝の感動を」が、開発の最初の言葉でした
- 組織: 同じ方向を向いて、実現できるか。12名のチームが、同じ味を体験してから、つくり始めました
- 戦略: どうすれば、戦わずに選ばれるか。トースターの機能の数を競うのではなく、パン屋さんの味という別の土俵に立ちました
- 哲学: 何のために存在するのか。公式は、おいしさを追い求めたと書いています。その姿勢が、開発の根にあります
4つは、行き来しながら育ちます。開発の経験が、会社の哲学の言葉を磨き直します。
私は講義で、お客様は2度判断する、と話しています。1度目は、買う前。この商品が欲しいと思えるか。2度目は、買ったあと。買ってよかったと思えるか。クロワッサンモードは、2度目の判断を先に設計した例だと、私は読みます。焼いた朝に「おいしい」と思えることが、最初から目標にあったからです。
「シェフとキッチン」で読むと、パン屋さんの味を家で再現するという行いは、ほかのメーカーも見ればまねできます。けれど、全員で同じ体験をして、試行錯誤を繰り返す開発のやり方は、見えにくく、まねしにくい。それが、キッチンです。
戦わないブランディングの定義は、下の記事に書いています。
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中小企業の商品開発の始め方

開発部門がない会社でも、順番は同じです。
- 機能を考える前に、お客様の一番いい瞬間を一つ書く。 「焼きたてのクロワッサンを食べた朝」のように、場面で書きます
- その瞬間を、自分たちで体験しに行く。 開発の担当者だけでなく、できるだけ多くの社員で
- その体験に、お客様の言葉で名前をつける。 仕様の言葉ではなく、食べる人・使う人の言葉で
- 体験に足りない部分だけを、機能で補う。 機能は、体験から逆算します
商品開発の出来は、お客様が、買ったあとの最初の朝に、その瞬間を味わえたかで測れます。
地域の中小企業のブランディングについては、ブランディング会社のページで、考え方と進め方をまとめています。
よくある質問
Q. 商品開発は、何から始めればよいですか?
私は、機能の前に、お客様の一番いい瞬間を書くことをすすめます。この記事の公式の例では、最初にあったのは、パン屋さんで食べた体験でした。
Q. 中小企業でも、チーム全員で体験する余裕はありますか?
人数が少ない会社ほど、全員で同じ体験をする意味は大きくなります。1回、半日でも構いません。
Q. バルミューダの例は、家電メーカーだけの話ですか?
いいえ。食品でも、サービスでも、お客様の一番いい瞬間から考える順番は同じです。
この記事は、バルミューダの公式サイトの開発ストーリーをもとに、私の見方で読み解いたものです。
出典:バルミューダ 決算短信(東京証券取引所・適時開示。数字は決算情報サイトの と https://finance.matsui.co.jp/stock/6612/settlement/index で確認、2026年10月26日。売上高の減少率は筆者の計算)/BALMUDA「人生最高のクロワッサン」(開発ストーリー)https://www.balmuda.com/jp/about/story/014 /同「製品開発ストーリー」https://www.balmuda.com/jp/about/story /同「会社概要」https://www.balmuda.com/jp/about/company-overview
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