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ザイオンス効果とは?「日立の樹」に学ぶ、残す印象の決め方

この記事の結論
ザイオンス効果は、接する回数が増えるほど、その相手への好意が増すとされる心理の考え方です(株式会社オムニモスーク・安田旬佑)。実例として読むのは、1973年から放映されてきたテレビCM「日立の樹」です。日立は2005年の9代目で、同じ樹を使い、「親しみやすい」「大きくて力強い」「成長性を感じる」というイメージを継承すると書きました。私は、回数を重ねる前に、残したい印象を言葉にすることが先だと読みます。形は、その印象のために1つ決めて、見せ方は更新します。

「広告もSNSも出しているのに、覚えてもらえている気がしない」

そう感じている経営者の方は、多いはずです。回数が足りないのかと思って、もっと出そうとする。その前に確かめておきたいことを、日立の公式の記録で読みます。


1. 接する回数と、好意

ザイオンス効果は、単純接触効果とも呼ばれます。接する回数が増えるほど、好意が増すとされる考え方です。名前のもとは、心理学者のロバート・ザイアンス。1968年の論文「Attitudinal effects of mere exposure」が知られています。

私の勉強会の資料でも、好意を生み出す4つの要因の1つに「接触と協同」を入れています。

では、会社は何を、何度も見せればいいのか。バラバラの広告を10回見せても、お客様の頭の中では10個の別の話です。思い出すための引き金は、同じ形だから引き金になります。

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2. 同じ樹は、1984年からだった

「日立の樹」は、日立グループのテレビCMです。2005年2月1日のニュースリリースに、それまでの歩みが書かれています。

1973年から30年間以上、放映してきた。CMソングは、放映開始以来、同じ曲。この曲はCMの外でも、小中学校の合唱コンクールなどで歌われている、とあります。

読んでいて、手が止まった一文があります。「1975年から実際の樹を使用しており、数回の交代の後、1984年から初代『日立の樹』と同じハワイ・オアフ島モアナルア・ガーデンパークの『モンキーポッド』を用いています」。

ずっと同じ樹のCMだと思っていた方もいるはずです。1975年から実際の樹を使っている、という書き方からは、最初の2年ほどは実際の樹を使っていなかったと読めます。樹は何度か替わり、いまの場所のモンキーポッドに落ち着いたのは、放映開始から11年後(私の計算)です。

完成した形は、始めた日にはありませんでした。続けながら、決まっていきました。

ここは、これから始める経営者の方に、いちばん伝えたいところです。形が決まらないから始められない、と感じる方もいるはずです。樹の話は、その逆を教えてくれます。

3. 9代目が「継承」と書いたもの

もう1つ、同じリリースで大事な言葉があります。9代目のCMについて、「現在放映中のCMと同じモンキーポッドを使用し、『親しみやすい』『大きくて力強い』『成長性を感じる』といったこれまで醸成、蓄積してきたイメージを継承」と書かれています。

私は、こう読みます。継承すると書かれているのは、樹そのものより、3つの印象の言葉です。樹は、その印象を見せるための形です。

私はブランドを、お客様の頭と心にある感情をともなった印象だと定義しています。回数を重ねて残るのは、形の奥にある印象のほうです。だから、何度も見せる前に、どんな印象を残したいのかを言葉にしておく。日立のリリースは、その言葉を3語で持っていました。

4. 変えなかったものと、変えたもの

同じリリースと、2017年のリリースから、2列に分けます。

1984年からのモンキーポッド(2005年の9代目でも同じ樹)
変えたもの:正面から捉えた樹と光の動きを主にした、ハイビジョンの映像

放映開始以来の曲
変えたもの:アカペラグループによる歌

3つの印象の言葉
変えたもの:2017年、番組の30周年に合わせた特別CM

1986年4月から提供してきた番組という場所(2017年の時点)
変えたもの:2016年5月からの「THE FUTURE IS OPEN TO SUGGESTIONS」という新しいメッセージ

回数を重ねるといっても、同じものを流し続けるのとは別の話です。見せ方は更新し、思い出す手がかりは動かさない。変えないことと、変えることの線引きが、ここにあります。

5. 認知度ほぼ100%は、何を言える数字か

2005年のリリースには、調査の数字もあります。2004年8月、東京近郊の男女600名を対象に、日立製作所が行った調査で、CMの認知度はほぼ100%、好感度は90%以上でした。

大きな数字です。ただ、読み方には気をつけます。これは日立の自社調査で、対象は東京近郊の600名。測っているのは認知度と好感度で、接した回数との関係は測っていません。「30年流したから好かれた」とまでは、この数字からは言えません。

言えるのは、知られていることと、好まれていることの両方が高かった、という事実までです。

それでも、この数字には学べることがあります。日立は「知られている」と「好まれている」を分けて測っています。回数を増やせば、知られるところまでは進むかもしれない。好まれるかどうかは、そのとき何を受け取ったかで決まります。だから、自社でも2つを分けて聞くと、次に直す場所が見えます。

6. 歌は、回数を思い出に変える

リリースの中で、もう1つ目を引く事実があります。あの曲は、小中学校の合唱コンクールなど、CMの外でも歌われている。

私は講義で、ブランドが残る記憶を3つに分けて話します。手続きの記憶、意味の記憶、エピソードの記憶です。テレビで何度も聞いた曲は、まず耳に残ります。それを教室で友だちと歌えば、自分の思い出になる。接した回数が、自分の体験に変わる瞬間です。

広告の回数を増やすのは、お金があればできます。お客様が自分で歌う、自分で誰かに話す、というところまでは、お金だけでは届きません。中小企業が狙えるのは、むしろここです。店の前の短い言葉、毎年同じ日に届く手紙、社員が同じ言い方でする挨拶。小さな形でも、お客様の毎日の中で繰り返され、誰かに話される形なら、大きな広告の届かない場所まで入っていきます。

私の会社も、発信の多くに「戦わないブランディング」という同じ言葉を入れています。同じ言葉を見た回数が、お客様の頭の中で1つの印象につながるように、という考えです。

自社で「残す印象」を決める手順

回数を重ねる前に、残したい印象を3語で決める

新しい広告を作る前に、1枚の紙に書きます。

  • 残したい印象を、3語で書く。 「親しみやすい」のように、お客様の気持ちの言葉で。自社の自慢の言葉は外します
  • その印象を見せる形を、1つ選ぶ。 色、音、言葉、写真、キャラクター。最初から完璧でなくても、始めます
  • お客様に触れる場所を、全部書き出す。 名刺、看板、ホームページ、SNS、請求書。同じ形が入っているかに丸を付けます
  • 変えないものと、変えるものを2列に分ける。 変えるほうは、季節や商品に合わせて自由に動かします
  • 半年に1回、お客様に3語で聞く。 残したい印象と、返ってきた言葉を並べて、見せ方を直します

日立の樹も、11年かけて、いまの場所の樹に落ち着きました。

地域の中小企業のブランディングについては、ブランディング会社のページで、考え方と進め方をまとめています。

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よくある質問

Q. ザイオンス効果とは何ですか?

接する回数が増えるほど、その相手への好意が増すとされる心理の考え方です。単純接触効果とも呼ばれます。名前のもとは心理学者のロバート・ザイアンスです。

Q. 回数を増やせば、好かれますか?

回数だけで決まるとは言えません。何を同じ形で見せ、どんな印象を残すかを先に決めます。

Q. 「日立の樹」はザイオンス効果の例ですか?

長く同じ形で接してきた例として読めます。ただし、公開されている調査は接した回数との関係を測っていないので、効果の証明とまでは言えません。

Q. 形が決まらないうちに、始めてもいいですか?

始めます。日立の樹も、いまの場所の樹に落ち着くまで、放映開始から11年かかっています。残したい印象の言葉を先に決めておけば、形は続けながら直せます。


この記事は、日立の公式の発表をもとに、私の見方で読み解いたものです。

出典:日立製作所 ニュースリリース「テレビCM『日立の樹』をリニューアル」(2005年2月1日) /日立製作所「『日立 世界ふしぎ発見!』放送開始30周年記念2時間スペシャルにて番組とコラボレーションした特別CMを放映」(2017年1月16日)https://www.hitachi.com/ja-jp/press/articles/2017/01/0116/ /Zajonc, R. B. (1968) “Attitudinal effects of mere exposure”, Journal of Personality and Social Psychology, 9(2, Pt.2), 1-27 https://doi.org/10.1037/h0025848

株式会社オムニモスーク 代表 安田旬佑