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ビジュル面での規格を定めるVIとは
さてこのページでは、ブランドが可視化されたVI/ビジュアルアイデンティティについて語ってみたいと思います。あなたがブランディングやマーケティング担当者であれば、避けては通れない分野になるでしょう。しかし、あなたがこの分野に興味を持っていないとすれば、この記事によって理解が深まり担当として自信を持つレベルになることを期待しています。
まずは、デザインというものは、外観・設計・関係の3つの視点から考えると良いでしょう。外観は見た目の美観のこと、設計は消費者の行動を導き、関係では人と人や人と企業の関係性を変える機能を持ちます。デザインというものは、これらの異なる領域を統合するという力を持っています。さて、VI/ビジュアルアイデンティティとは、
・ブランド戦略におけるデザイン
・ブランドマネジメントにおけるデザイン
・ユーザー体験におけるデザイン
について語ることができます。VIは、ブランドプロポジションやブランドアイデンティティなどにも大きく関与します。
VI/ビジュアルアイデンティティについて:デザイン【外観】
ドナルド・A.ノーマンは認知学者であり、著書「誰のためのデザイン?」で人間中心設計のアプローチを提示し様々な分野に貢献しています。人々とモノの間をつなぎ、人々の情動を刺激し行動を制御するものが「デザイン」になると私は解釈しています。
見た目の美しさ(外観)は人々の感情を動かします。グローバルというブランドのキッチンナイフは、外観の美しさにより人々を魅了し、手に馴染みやすく、切るという作業を上手に誘導してくれます。外観は感情を動かすことに繋がり、いつの間にかその商品への関心が高まることで、身近に置いておきたくなるものです。
デザイナーという職業はそのような人々の感情を動かすことが求められています。例えば、外国人が日本語のTシャツに興味を持つのは、明らかに意味に興味を持っているのではなく、日本語という外観に興味を持っているのです。また、日本人が英語のTシャツを来ているのも、同様です。自分たちの国の言葉を外国の人が着ているという滑稽な感じに見えるのは、外観から受ける印象が日本人と外国人によって異なるからだといえます。
VI/ビジュアルアイデンティティについて:デザイン【設計】
私たちがよく使う言葉で、「デザインする」ということは、この設計のことだと考えられます。それは、そのデザインされたものがユーザーに使われるということが前提としてあるからです。ノーマンはユーザー中心設計という言葉を使用しました。
そのため、ユーザーが誰で、そのタスクと目標は何か?そして、その設計に対してどのような習熟がなされるのか?などをデザインの前提の条件として整理するところから始まります。そのデザインされたものが、ユーザーの目に止まるのか、それにアクセスしやすいのか、また内容がわかりやすいのかなど、ユーザーがどのような体験をするのかもデザイナーたちは思考を巡らせます。
昨今では、ユーザーにどのような体験をしてもらうかを設計することを、ユーザーエクスペリエンスデザインとよばれ、人中心のデザインというものがとても大事な考え方になっています。デザイン思考というものを聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、まさに人中心のデザインプロセスを意味します。
設計というと、建築物の図面を書くような印象を持たれる方も多いと思いますが、人とデザイン対象物の間に存在する橋をどのように設計するかという表現もできるかもしれません。デザイン対象物に対して、人がアクセスし行動に移しやすくするためには、どのような設計を行うかということが、デザイナーの役割と言えます。
VI/ビジュアルアイデンティティについて:デザイン【関係】
さて、デザインにおける関係についてお話したいと思います。関係というものは日本人がとても大切にしている、「間/ま」や「関係性」そのものと言えます。例えば、何かのポスターを見たとします。そのポスターには、大きな文字と男性の写真があるとします。文字と写真の関係性、そして、その2つが語る物語と人との関係性、また文字と写真以外の空間、ポスターと人の間に存在する空間。
実はデザイナーというものは、これらを意識的に計算しています。ポスターと人の距離が5メートルくらいだから、文字の大きさはこれくらいが最小のサイズだなと。デザインには、このような人との関係が非常に重要な要素となっています。
例えば、会社の未来をデザインするとか、事業をデザインするとか考える際は、会社や事業と何かの関係性を考えるということにも繋がります。それは、従業員との関係かもしれませんし、お客様との関係かもしれません。また、資本との関係かもしれません。それらの関係性を設計していくことも大きな枠組みでデザインと呼ぶことができるのです。
人は潜在的に、気づかないうちに何かに影響を受けています。それは建物や五感を刺激する他の何かかもしれません。デザインにはこの関係ということが意図的に盛り込まれていることを知ると、自分自身で決めていると思っていることは実はほんの僅かなことであって、実は何かしらの力によって決めさせられていると考えることもできるのです。そこをうまくついたのが、デザインであり、これから語るVI/ビジュアルアイデンティティなのです。
ブランディングにおけるデザインの役割
一般的にデザイナーという職業についている方以外は、デザインをするということについては、なかなか縁が遠いことと思います。デザインをするということが感性を大事にしていると思われていますが、感性だけではなくロジカルに考えるチカラも必要だということは外観・設計・関係でご理解いただけましたね。ここでは、ブランディングにおけるデザインというものの意味と価値、つまり、役割についてお話できればと思います。
まず、1つ目は情動を刺激するということです。情動を刺激し、感情を動かすことがデザインの「外観」という機能によってもたらされます。VI/ビジュアルアイデンティティにおいて、ロゴを制作する際、デザイナーはその会社や商品のキャラクターをイメージします。厳格なのか、遊び心があるのか、信頼性に重きを置いているのか、それらを解釈し、丸みを帯びたデザインにしたり、角ばらせてみたりします。
また配色についても同様です。赤色から受ける印象と紫色から受ける印象は異なります。VI/ビジュアルアイデンティティがなぜ重要視されているかと言えば、認知心理学での初頭効果というものがあるからです。初頭効果とは、最初に与えられた情報がその後の情報にも影響を及ぼすという現象であり、または効果のことです。いわゆる一言で第一印象として記憶されているわけです。
ですので、VI/ビジュアルアイデンティティによって会社や商品のキャラクターが正しく伝わるか、予期しない伝わり方をするのか左右されるのです。私自身はこれらの専門で行っていますので、VI/ビジュアルアイデンティティ一つ取ってみても会社の考え方や経営状況などを色々と想像したりします。
2つ目は、識別させるという効果があります。コカコーラのロゴマークを思い浮かべてくださいといわれて、あの手書きのような筆記体を容易に思い出せるのではないでしょうか。AをAと認識することは、動物にもともと備わっている能力です。そのため、デザイナーはあえて人々に認識させるためにビジュアル的にアイデンティティを確立させようとしているのです。そこで、ロゴマークだけではなく、チラシやPOP、ウェブサイト、パッケージ、ネーミング、封筒などに至るまで、統一感をもたせ世界観を作り上げようとしているのです。
VI/ビジュアルアイデンティティとは、このように分散してしまっている会社とそれ以外の人々との「関係」を「設計」していると言えるのです。人々にその会社、その商品という認識させることを設計することで、人々の心や頭の中に印象が形成されていき、それがブランドとして成長していくのです。
素晴らしい経営をされ、「俺の」イタリアン、「俺の」フレンチなど多店舗展開している、「俺の」グループがありますが、デザイン的にはロゴタイプやロゴマークに対して、もう少し配慮すれば良かったと創業当初から思っていました。
よくあるフォント(ロゴタイプ)を使用していて、いいサービスを提供しているのに、安っぽい印象を受けてしまいます。(安いのと安っぽいのは違います)あまりVI/ビジュアルアイデンティティには興味を持たれなかったのか、当時のデザイナーに膨大な見積もりが提出されたのかはわかりませんが、多店舗展開するとそのロゴタイプを使い続けるわけですから、安っぽい看板のまま広まってしまう印象を受けます。
しかし、数十店舗も運営するとロゴタイプを変えるだけでも、相当なコストが発生してしまいます。「俺の」グループは立派な経営者が経営をされているので、創業時のプロモーションも非常に素晴らしかったです。ですので、VI/ビジュルアイデンティティだけで会社が伸びるのではありませんが、最初の段階である程度アイデンティティを設計しておかないと、後になって変更するというのは大変な労力になるということです。
「俺の」グループはVI/ビジュアルアイデンティティにおいては、ネーミングやそれ以外のコンセプトが非常に卓越していたため、結果VI/ビジュアルアイデンティティはうまくいった稀な例と思います。消費者から識別されるということが、もっとも重要な目的の一つであるからです。
VI/ビジュアルアイデンティティの事例
VI/ビジュアルアイデンティティとは、つまり、そのブランドらしさをどのように表現するのかを定義し、コミュニケーションをどのように設計するのかということを意味します。顧客接点における時間と空間をどのような体験をさせるかということまで考えていくケースもあります。それは、ブランディングを行う部門だけの問題ではなく、営業部門やサービス部門や会社全体的に設計を要する場合もあります。
VI/ビジュアルアイデンティティとは、言葉の通り、ビジュアル面でのアイデンティティの設計を行うことであり、顧客との関係性を良くするために外観を磨かなければならないのです。VI/ビジュアルアイデンティティにもっとも重要なことは、一貫性・統一感と言えます。
例えば、ロゴタイプは会社の各部署で活用されます。その時に、ロゴタイプの色や形、またはロゴタイプのデザインそのものを適当なものに変えてしまうようなことがあっては、一貫性や統一感にかけてしまうことになります。このことは多くの中小企業のなかで起こっている現象ですが、これらの内容をお伝えしたとしても、多くの方は重要視していません。
逆を言えば、大手企業で一貫性や統一感を大事にしていない会社は見かけませんね。中小企業はそのようなVI/ビジュアルアイデンティティの意義というものを理解いただけるといいのになぁと考えています。アイデンティティとは、その会社らしさや考え方を意味します。
VI/ビジュアルアイデンティティは、その会社らしさや考え方の一貫性というものが内面から外に向けて表現されたものでなければなりません。逆を言えば、VI/ビジュアルアイデンティティに配慮がなければ、一見さんがお客様としてこられた時に、ギャップや違和感を感じてしまうかもしれません。いい会社は、見た目もスマートに整理されています。会社の考え方や姿勢・哲学というものは顧客に伝わりにくいものですが、その伝わりにくいものを伝えようというのがVI/ビジュアルアイデンティティであると考えます。
VI/ビジュアルアイデンティティの事例としては、グーグルの画像検索を使ってみると直感的にわかります。いかがでしょうか。それぞれの世界観が異なることが伝わりますでしょうか。色合いや、パッケージ、フォント、デザイン、施設の環境などそれぞれが統一感を持ち、世界観を重要視しています。ブランディングにおけるコミュニケーション戦略というものは、VI/ビジュアルアイデンティティによって消費者と一貫性のある世界観を認識してもらうことです。その軸そのものがアイデンティティであり、その企業らしさとなるのです。
Vi/ビジュアルアイデンティティとBI/ブランドアイデンティティ
VI/ビジュアルアイデンティティは、コミュニケーション戦略におけるアイデンティティを形にしたものです。VI/ビジュアルアイデンティティは会社の考え方や事業活動を伝える際に、一貫性を持たせるためには欠かせない手段と言えます。そのVI/ビジュアルアイデンティティを定義づける根本的なアイデンティティがBI/ブランドアイデンティティです。
BI/ブランドアイデンティティとは、当社では「ブランドの一貫した考え方と姿勢」と定義しています。BI/ブランドアイデンティティでは、そのブランドの考え方や価値観、そしてその行動に至るまで、一貫したブランドの姿を追求するものです。どちらかと言えば、ブランドの内面的なことを表します。その目には見えないアイデンティティを定義していくことがBI/ブランドアイデンティティといいます。
その定義されたものを土台として、ビジュアル的に表現されたものがVI/ビジュアルアイデンティティというわけです。そのため、VI/ビジュアルアイデンティティには、前提として会社の考え方や価値観が内包されています。ここで、VI/ビジュアルアイデンティティもBI/ブランドアイデンティティも、暗黙知を形式知にするプロセス、つまり、定義づけるために文字情報やビジュアル情報に変換するステップがあります。このプロセスにクリエイターが関与するのですが、クリエイターのインプットスキルやアウトプットスキルによって様々な表現が生まれます。
そしてその運用においても、担当者にその理解が薄ければ、規定外の活用の仕方をしてしまうため、本来一貫性を求めて構築してきたものがガラリと崩れてしまう可能性が生まれます。VI/ビジュアルアイデンティティも、BI/ブランドアイデンティティも、様々な担当部署が理解を深めながら構築していくものであり、「ロゴが必要だから、作っておいて」ではコミュニケーションが破綻してしまうことを理解していただきたいと思います。
VI/ビジュアルアイデンティティの規格
こちらでは、VI/ビジュアルアイデンティティの規格についてお話します。基本的な規格の構成要素としては、ロゴマーク、ロゴタイプ、コーポレートカラーです。私の経験上で言えば、パッケージやジングル、URLなどはBI/ブランドアイデンティティの方には関与してくると思いますが、基本的なVI/ビジュアルアイデンティティということであれば、ロゴマーク、ロゴタイプ、ブランドカラーです。
ロゴマークとはブランドの象徴となるマークで、ブランドロゴタイプとはブランドに規定されたフォントであり、ブランドカラーというものはブランド特定の色になります。VI/ビジュアルアイデンティティは、VI/ビジュアルアイデンティティマニュアルや、VI/ビジュアルアイデンティティ規格書やデザインマニュアルなどとして、社内での取り扱いのルール決めを行います。規定を作ることで、扱い方や行ってはいけないことを明確にします。VI/ビジュアルアイデンティティマニュアルは、
・ロゴの基本形とコンセプト
・カラーシステム
・シグネチャー
・書体
・サブカラー
・使用禁止例
などから構成されます。そして、これらの基本デザインをもとに、アプリケーションデザインと言って名刺や封筒、車へのラッピングなどに活用されていきます。大切なことは、VI/ビジュアルアイデンティティは一度規定すると、関係者が増えれば増えるほど、その「ピュア」な状態から形が変わったり、色が変わったりしていきます。そのようなことことからブランドが毀損する可能性が生まれますので、ご注意ください。概ねブランドは会社の内部から壊れていくことをお忘れなく。
VI/ビジュアルアイデンティティとは:まとめ
さて、いかがだったでしょうか?振り返りを行いますと、デザインには3つの機能がありました。【外観】は見た目の美観のことであり、【設計】は消費者の行動を導くために用いられ、【関係】とは人と人、人と企業の関係性を変える機能を持ちます。これらのデザインの3つの機能を理解するだけでも、なぜVI/ビジュアルアイデンティティが必要とされるのかが理解できます。
会社や商品が大事にしている考え方や哲学といったものを、アイデンティティとしてビジュアル的な表現によって、消費者にブランドを再生させることがVI/ビジュアルアイデンティティのもともとの狙いです。VI/ビジュアルアイデンティティの役割は、人々の情動を生み出し、他の類似商品と識別化を連想させるためのスイッチのようなものです。そのスイッチは簡単でなければならないですし、明確でなければなりません。
ブランディングにおけるコミュニケーション戦略というものは、VI/ビジュアルアイデンティティによって消費者と一貫性のある企業や商品・サービスの世界観を認識してもらわなければなりません。そのためにVI/ビジュアルアイデンティティの規格というものが存在し、様々な使用用途によって定義づけることによって、社内におけるブランドの用途に間違いが怒らないようにする必要があります。
VI/ビジュアルアイデンティティというものは、見た目だけの問題ではなく、企業側のビジュアル開発に至るまでの哲学こそが、実は本当に大切な基礎になるのです。氷山で例えると、海の外に出ているごく僅かな氷の塊がVI/ビジュアルアイデンティティであり、水中の中に存在する氷山の大部分こそが、会社の哲学であると言うことができます。