ニッチトップとは?約700人で世界の4割、小さな製品で60か国。中小企業が「首位を一つ持つ」戦略を、3社の公式資料で読む
この記事の結論
ニッチトップとは、狭い分野で首位を取り、そこで利益を出し続ける会社のことです。従業員709名の第一稀元素化学工業は、自動車の排ガス浄化触媒に使うジルコニウム化合物で「約40%(当社推定)」の世界シェアを公表しています。私は、ニッチを狭さの話だと読みません。旗を立てる場所の話だと読みます。同業と戦わず、自社に価値を見いだすお客様を絞り込み、そこに資源を集中する。中小企業にできるのは、まず首位を一つ持つことです。
「うちは小さいから、大手とは戦えない」
そう言う経営者の方に、私はいつも、逆の順番で考えてもらいます。小さいからこそ、戦わずに済む場所を選べるのです。経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」に選ばれた3社が、公式に公開している言葉で読んでいきます。
1. ニッチトップとは何か
ニッチトップは、特定の狭い市場(ニッチ)で首位(トップ)の位置にいる会社や事業のことです。市場全体では小さくても、その分野では世界のシェアの何割かを持ち、利益を出している。経済産業省は、そうした企業を2013年度と2020年に「グローバルニッチトップ企業100選」として選びました。
私は講義で、顧客の人数と価値の強さの2つの軸に、ニッチ、マスブランド、ナショナルブランドを置いて説明しています。ニッチの位置にあるのは、「自社の商品・サービスに価値を見いだす顧客の特性(絞り込み)」です。つまりニッチとは、小さい市場のことというより、自社に価値を見いだす人が、だれなのかを絞り込んだ結果です。
絞り込みそのものの考え方は、ターゲティングとは?に書きました。この記事は、絞り込んだ先で「首位を持つ」ところまでを扱います。
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第一稀元素化学工業は、1956年設立のジルコニウム化合物のメーカーです。会社概要によると、従業員は709名(連結・2026年3月31日現在)。
同社の事業内容のページには、自動車排ガス浄化触媒の分野について、こう書かれています。「当社は、本分野で約40%(当社推定)の世界トップシェアを誇り、2020年には経済産業省『グローバルニッチトップ企業100選』にも選出されました」。
私が目を引かれたのは、「当社推定」と自分で断っているところです。数字を大きく見せる言い方を選ばず、推定だと書く。それでも約4割は、約4割です。
ここからは、私の読みです。ジルコニウムという一つの素材を、ガソリン車の排ガス浄化という一つの用途で深く掘った。会社の大きさで勝負していない。素材と用途の組み合わせで、旗を立てる場所を決めた。だから709人で、世界の4割に届いています。
3. オプテックス:1980年の「世界初」から、2回の選定
オプテックスは1979年設立、滋賀県大津市の会社です。2020年6月30日の発表によると、自動ドアセンサーで「新グローバルニッチトップ企業100選」に選ばれ、2013年度に続く2回目の選定でした。
同じ発表には、こう書かれています。1980年、それまで人やモノの重さでドアが開く足踏み式が主流だった自動ドア業界に、世界初となる遠赤外線を用いた自動ドアセンサーを投入した、と。現在の自動ドアセンサーのシェアは、世界で30%、日本で55%と公表しています。約30の国と地域に拠点を持っています。
1980年に自分で市場の入口をつくった会社が、40年たっても同じ製品で首位にいる。最初に旗を立てた場所を、そのまま守り続けている。ニッチトップは、取ったあとが本番です。守り続けた年数が、そのまま参入の壁になっています。
4. 高砂電気工業:「ノーと言わない」で、60か国
高砂電気工業は1959年創業、分析装置に使う電磁弁(ソレノイドバルブ)のメーカーです。2020年版の100選に選ばれ、同社のニュースリリースにはこうあります。「今や連結売上の半分近くが海外のお客様からで、販売先は60か国近くに及んでいます」。
同じ文章に、会社の姿勢が一言で書かれています。「お客様の技術的なご要望にノーと言わない」。創業以来、「小さなグローバル企業」を目指してきた、とも。
ここに、中小企業にいちばん近い形があると私は思います。製品はマイクロリットル単位の流体を扱う、小さな部品です。けれども、その小さな部品で、世界の分析機器メーカーや研究機関から特注の相談が来る。難しい要望に応え続けることが、そのまま首位の理由になっています。
5. 3社が自分で書いた一言を、並べてみる

3社の公式の文章から、会社が自分で選んだ言葉を一つずつ抜き出します。
- 第一稀元素化学工業:「約40%(当社推定)の世界トップシェア」
- オプテックス:1980年に「世界初となる遠赤外線を用いた自動ドアセンサー」を投入
- 高砂電気工業:「お客様の技術的なご要望にノーと言わない」
3つとも、シェアの数字より先に、会社の構えが出ている言葉です。「当社推定」は、数字を大きく見せない誠実さ。「世界初」は、市場の入口を自分でつくった年。「ノーと言わない」は、難しい注文を断らないという約束。首位の数字は、この一言を何十年も守った結果として後からついてきた、と私は読んでいます。
私は講義で、ブランディングの順番をこう話しています。まず、自社が提供できる便益と独自性を定める。次に、それに価値を見いだすお客様を特定する。そして、そのお客様への提案と記憶に、資源を集中する。3社の一言は、どれも最初の「便益と独自性を定める」にあたります。高砂電気の「ノーと言わない」は、そのまま特注の相談を世界から呼ぶ理由になり、オプテックスの「世界初」は、40年後も同じ製品で首位にいる理由になっています。
旗は、市場の地図の上に立てる前に、まず会社の言葉として立っています。だから、ニッチトップを目指すときに最初に書くのは、狙う市場の名前ではなく、自社が何十年も守れる一言です。
小さな市場を選ぶことそのものは、ブルーオーシャン戦略とは?にも書きました。この記事との違いは、選んだあとに「首位を持つ」ところまで行くかどうかです。
自社の「首位を一つ」決める手順
お客様の顔を3人分、思い浮かべるところから始めます。
- 自社の商品に、いちばん価値を見いだしているお客様を3社、書き出す。 売上の大きさではなく、「うちでないと困る」と言ってくれる相手
- その3社に共通する、用途か場面を一つ、言葉にする。 第一稀元素なら「排ガス浄化触媒」、高砂電気なら「分析装置の電磁弁」。狭いほど、旗は立てやすくなります
- その用途で、自社が守り続ける一言を書く。 「当社推定」「世界初」「ノーと言わない」のように、会社の構えが出る言葉で。書けなければ、まだ旗を立てる場所が決まっていません
- 小さく試す。 私は、小さく試して勝ちパターンを見つけ、そこから大きく投資する、と考えています。志は桁違いに持ちながら、最初の一手は小さく
- 首位を取ったら、守る年数を数える。 オプテックスは1980年から。守った年数が、参入の壁になります
ニッチトップは、会社の規模と関係なく生まれます。旗を立てる場所を自分で決めた会社が、そう呼ばれるようになります。
地域の中小企業のブランディングについては、ブランディング会社のページで、考え方と進め方をまとめています。
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よくある質問
Q. ニッチトップと、ブルーオーシャン戦略は何が違いますか?
ブルーオーシャンは、競争のない市場を見つける考え方です。ニッチトップは、その市場で首位を取り、守り続けた結果の呼び名です。見つけるだけでは、ニッチトップにはなりません。
Q. 市場が小さすぎると、売上が伸びないのではありませんか?
3社とも、狭い分野で世界に出ています。高砂電気工業は、連結売上の半分近くが海外です。狭さは国内の中での狭さで、分野を世界に広げれば、首位の価値は大きくなります。
この記事は、第一稀元素化学工業・オプテックス・高砂電気工業の公式の記載をもとに、私の見方で読み解いたものです。
出典:第一稀元素化学工業「事業内容」 /同「会社概要」https://www.dkkk.co.jp/company/profile.html /オプテックス「自動ドアセンサーが経済産業省認定『新グローバルニッチトップ企業100選』に選定」(2020年6月30日)https://www.optex.co.jp/news/2020/0630.html /高砂電気工業「経済産業省認定『グローバルニッチトップ企業』に選ばれました」(2020年7月2日)https://takasago-elec.co.jp/news/p7904/
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