ホーム / MEDIA

MEDIA

リーバイスの歴史|ポケット1か所の困りごとから

この記事の結論
リーバイスのジーンズは、丈夫なズボンを頼んだ客の1件の注文から始まりました(株式会社オムニモスーク・安田旬佑)。1873年の特許の題は「ポケットの口の留め方の改良」です。会社自身は、ズボンを発明したのでなく、リベットを打って新しい作業着の区分をつくったと書いています。私は、新しい市場は大きな構想より、1人の客の困りごとと、それを受け止めた取引先の手紙から始まると読んでいます。

「縫い目は、ポケットに手を入れることで、たいていほどけたり裂け始めたりする」

1873年の米国特許139,121号の明細書に、こう書かれています(私の訳)。題は「ポケットの口の留め方の改良」。題のどこにも、ズボンという言葉はありません。

私は高校生のころリーバイスにはまって、古着のデニムを履きつぶすまで履いていました。そのジーンズの始まりは、ポケットのほころびでした。


1. リノの仕立て屋に来た、1件の注文

会社の資料によると、1870年の暮れ、ネバダ州リノの仕立て屋ジェイコブ・デイヴィスのもとに、女性客が来ました。体の大きい夫のために、安いズボンを1本。夫はズボンをすぐに破く癖がある。前金で3ドルを払い、できるだけ丈夫に、と頼みました。

デイヴィスは、馬の毛布を作る仕事で、ひもを留める銅のリベットを店に持っていました。ズボンを仕上げたとき、同じリベットでポケットを留めたらどうかと思いつきます。

ここに、市場調査は出てきません。新しい素材の開発も出てきません。1人の客の困りごとと、店にあった別の仕事の部品です。

経営者・ブランド管理者向けThe Art of Branding 無料説明会次回勉強会のテーマ 「ブランディングに必須のアート思考とは」無料で申し込む

2. 18か月で200本。そして問屋へ手紙を書いた

新しい市場は、1件の困りごとと1通の手紙から始まる

そのズボンは、すぐに評判になりました。デイヴィスは18か月で200本を作って売ります。すると、ほかの仕立て屋がまねを始めました。

デイヴィスは、特許を共同で出してほしいと、サンフランシスコのリーヴァイ・ストラウスに手紙を書きます。

なぜリーヴァイなのか。会社の資料に、さりげなく理由があります。デイヴィスは1870年から、荷馬車の幌やテントの布を、リーヴァイの問屋から買っていました。

リーヴァイ・ストラウスは、針を持つ職人ではありません。1853年にサンフランシスコに来て、西部の小さな雑貨店へ売る、卸売りの商人です。その問屋に、布を買っていた客の1人から、手紙が届いた。リーヴァイは特許の共同出願に応じただけでなく、デイヴィスをサンフランシスコに招き、製造を任せました。一家の到着は1873年4月26日。特許の成立は5月20日です。

発明者を、取引先のまま置いておかなかった。これはリーヴァイの経営の判断だと、私は読みます。ブランディングとは経営の全てであり、その活動です。

3. 「私たちは、ズボンを発明したのではない」

会社の公式の年表は、はっきり書いています。私たちは作業ズボンのカットやフィットを発明したのでない。伝統的な男性の作業ズボンにリベットを打ち、いまジーンズと呼ぶ作業着の新しい区分をつくったのだ。

最初の製品名は「waist overalls」。特許の約5週間後、1873年6月28日の新聞『パシフィック・ルーラル・プレス』は、ポケットが裂けて垂れるのはだらしなく見え、物もなくすと書き、リーヴァイの会社を唯一の代理店として紹介し、買い手に鉱夫、農家、働く人を挙げています。

最初の評価は、かっこいいでも、丈夫で長持ちでもなく、だらしなく見えないこと、物をなくさないこと。ずいぶん地味です。

新しい区分は、会議室の構想からでなく、ポケット1か所から生まれました。

公式の年表には、品番の501がなぜこの番号なのかは分からない、ともあります。1906年の地震と火災で記録が失われたからです。尻ポケットの弓形の縫い目が鳥の翼だという話も作り話だと、公式が書いています。分からないことを分からないと書く年表は、信用できます。

4. 発明者は、亡くなるまで工場にいた

最初は女性たちが自宅で縫っていましたが、需要が増えて工場ができ、デイヴィスが監督になりました。市の名簿の職業欄は、1874年に「製造業」、1903年に「資本家」。1907年ごろ権利を会社に売ったあとも、1908年に亡くなるまで工場を監督しました。

リノの仕立て屋が、布の売り手に手紙を書いてから、35年です。

自社の「ポケット」を見つける手順

先月のクレームか、無理な注文を1件、開きます。

  • お客様の言葉のまま書く。 「すぐ破ける」「できるだけ丈夫に」。きれいに言い直しません
  • どこが、いちばん先に壊れるかを見る。 商品全体でなく、ポケットの1か所まで絞ります
  • 別の仕事の道具を見回す。 馬の毛布の銅のリベットのように、答えが社内の別の場所にないか探します
  • 売った先、買った先に話す。 問屋への1通の手紙のように、ひとりで抱えず、組む相手を探します
  • 新しい名前をつける。 改良品で終わらせず、どんな区分の商品なのかを、一言で呼びます

新しい市場の入口は、たいてい今日の困りごとの中にあります。先月の1件を、もう一度読むところからです。

地域の中小企業のブランディングについては、ブランディング会社のページで、考え方と進め方をまとめています。

▶ 関連記事:知覚価値とは?968万円のワインに、値打ちを感じられるか

▶ 関連記事:ブランドプロミスとは?掲げるより「守る」がブランド

▶ 関連記事:100年企業の共通点|変えないことと変えることの線引き


よくある質問

Q. ジーンズを発明したのはだれですか?

米国特許139,121号の発明者は、リノの仕立て屋ジェイコブ・W・デイヴィスで、本人とリーヴァイ・ストラウス社に譲渡されています。会社自身は、ズボンそのものの発明でなく、リベットを打って新しい区分をつくったと書いています。

Q. 特許はいつですか?

出願は1872年8月9日、成立は1873年5月20日です。

Q. なぜ501という番号なのですか?

公式の年表は、分からないと書いています。1906年の地震と火災で記録が失われたためです。


この記事は、Levi Strauss & Co. の公式の資料と米国特許をもとに、私の見方で読み解いたものです。

出典:Levi Strauss & Co.「Jacob Davis: His Life and Contributions」 /同「History of the Levi’s 501 Jeans」https://www.levistrauss.com/wp-content/uploads/2014/01/History-of-Levis-501-Jeans.pdf /米国特許139,121号 https://patents.google.com/patent/US139121

株式会社オムニモスーク 代表 安田旬佑