ホーム / MEDIA

MEDIA

アンカリング効果とは?Netflixの料金表と8週間の線

この記事の結論
アンカリング効果とは、最初に見た数字が、その後の判断の基準になる心の動きです(株式会社オムニモスーク・安田旬佑)。値引き前の価格を並べれば、お客様はそれを物差しに安さを測ります。だから消費者庁の指針は、過去の販売価格と比べて書くときの見方として、8週間の線を示しています。私は、最初に見せる数字はお客様に渡す物差しだと考えます。物差しは事実で示し、できれば安さでなく自社の価値に置き直します。

「紳士スーツ 当店通常価格58,000円の品 40,000円」

消費者庁の指針に、こういう例が載っています。実際にはその商品を通常45,000円で売っていたとすると、不当表示のおそれがある、という架空の店の例です。58,000円を見た瞬間に、人は40,000円を安いと感じます。指針が例に挙げるのは、その数字に力があるからです。


1. アンカリング効果は、関連する値から始まる予測の近道

名前の元は、1974年9月の雑誌『Science』に載った、エイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンの論文です。要旨によると、人は不確かな判断で3つの近道を使い、その1つが「基準からの調整」で、関連する値があるときの数の予測で使われます。要旨はこう続きます。こうした近道は経済的でふつう有効だが、系統的で予測できる誤りも生む。

大事なのは、「ふつう有効」と書かれていることです。人は怠けて数字に引っぱられるのでなく、毎回一から考えていられないから、最初の数字を手がかりにします。売る側にとっては、お客様が最初に見る数字を任されている、ということです。

経営者・ブランド管理者向けThe Art of Branding 無料説明会次回勉強会のテーマ 「ブランディングに必須のアート思考とは」無料で申し込む

2. お客様は「通常価格」をどう受け取るか

消費者庁の指針「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」は、お客様の受け取り方を、はっきり書いています。

比較の価格がどんな価格か具体的に書かれていないとき、一般消費者は、通常、同じ商品がその価格でセール前の相当期間販売されていて、セール中はその分だけ安くなっていると認識するものと考えられる。

物差しとして受け取られる、と国の文書が書いているわけです。

3. 物差しに引かれている、8週間の線

では、どこまでが「相当期間」なのか。指針には一般的な見方が書かれています。

  • セールの開始時点からさかのぼる8週間を見る
  • その価格で売っていた期間が、その商品を売っていた期間の過半なら、相当期間といえる
  • ただし、その価格での販売が通算2週間未満、または最後に売った日から2週間以上たっていれば、いえない

「マーガリン 当店通常価格498円→258円」と書きながら、実際は通常338円で売っていた、という例も載っています。心理の話に見えるものが、日付と週数の話になる。ここが、経営者が知っておくべきところです。個別の表示の判断は、専門家に相談してください。

4. Netflixは3つを並べ、ニトリは期間を告げる

実在の会社の見せ方も2つ見ます。ここで書くのは見せ方の事実だけで、狙いは公式に書かれていません。

Netflixの日本のヘルプには、月額料金が3つ並んでいます。広告つきスタンダード890円、スタンダード1,590円、プレミアム2,290円(2026年11月7日時点)。差額はどちらも700円です(私の計算)。そして、それぞれに何が付くかが書いてある。同時視聴は2台、2台、4台。画質は1080p、1080p、UHD 4K。1,590円を見る人は、890円と2,290円を物差しにして、700円で何が増えるかを測れます。

ニトリホールディングスのN+のリリース(2026年11月3日)は、ブラックフライデーの期間(11月9日から30日)と、「特別価格」を載せています。リリースの中に、通常価格の金額はありません。比べる数字を出す代わりに、期間で告げる見せ方です。

どちらも、数字の出し方の例です。効果がどれだけあったかは、公開の資料からは分かりません。

5. 物差しを、安さから外す

最初に見せる数字が、お客様の物差しになる

私は「価格で戦うな」と話しています。真似できない独自性を磨けば、戦わずに選ばれる。

最初に見せる数字を値引き前の価格にすると、お客様の物差しは「いくら安いか」になります。次のセールでは、もっと安くしなければなりません。Netflixの表のように、値段の隣に「何が手に入るか」を置くと、物差しは「その差で何が増えるか」になります。

お客様が感じる価値は、実際の価値と違います。最初に見せる数字は、その感じ方の始まりです。価格の決め方と同じくらい、見せ方は経営の仕事だと私は考えています。

自社の見せる数字を点検する手順

自社の見積書か価格表を1枚、机に出します。

  • お客様が最初に見る数字に、丸をつける。 それが物差しです
  • 比べている価格を確かめる。 「通常価格」と書いているなら、本当にその価格で売っていた期間を数えます
  • 値段の隣に、何が手に入るかを書く。 3つの選択肢にするなら、差額で何が増えるかを1行で
  • 割引の言葉を減らす。 期間や理由で告げられないかを考えます
  • お客様に聞く。 「高いと感じましたか、何と比べましたか」。お客様の物差しが分かります

正しい物差しを渡せば、お客様は自分で納得して選べます。

地域の中小企業のブランディングについては、ブランディング会社のページで、考え方と進め方をまとめています。

▶ 関連記事:価格の決め方

▶ 関連記事:知覚価値とは?968万円のワインに、値打ちを感じられるか

▶ 関連記事:価格競争から抜け出す方法


よくある質問

Q. アンカリング効果とは何ですか?

最初に見た数字が、その後の判断の基準になる心の動きです。1974年のトベルスキーとカーネマンの論文の「基準からの調整」が元です。

Q. 「通常価格」は自由に書けますか?

消費者庁の指針に考え方が示されています。8週間のうち過半の期間その価格で売っていたかなどが一般的な見方です。個別の判断は専門家に確認してください。

Q. 中小企業ではどう使いますか?

見積書や価格表で最初に見せる数字を事実で示し、値段の隣に何が手に入るかを書きます。


この記事は、論文の要旨、消費者庁の指針、各社の公式の記載をもとに、私の見方で読み解いたものです。

出典:Tversky & Kahneman (1974) Science 185(4157), 1124-1131 /消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_35.pdf /Netflix「プランと料金」https://help.netflix.com/ja/node/24926 /ニトリホールディングス(2026年11月3日)https://www.nitorihd.co.jp/news/items/0afc0b32d27fc3e3adbb93eeb0622e16.pdf

株式会社オムニモスーク 代表 安田旬佑